「きざみ食」は食べやすい?

工藤美香(駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 教授)

1.はじめに

わが国では、長年にわたって、「噛みにくいなら小さくする」という経験的な工夫として「きざみ食」が普及してきました。常食を包丁できざむだけで対応できるため、大量調理の現場でも導入しやすく、多くの施設で定着しました。また、「小さければ飲み込みやすい」というイメージもあり、“安全そうな食事”として定着してきた背景があります。

一見すると食べやすそうに見えるきざみ食ですが、実は摂食嚥下障害を持つ方にとって、必ずしも安全とは限りません。近年では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会分類2021でも、「単に細かくきざむだけでは食べやすさにつながらない」ことが示されています。

本コラムでは、きざみ食の問題点と、これからの食支援について考えます。

2.きざみ食で起こりやすい問題

きざみ食によって以下のような問題が起こることがあります。

① バラバラになりやすい

 食塊としてまとまりにくく、口腔内や咽頭で散らばりやすくなります。

② 咽頭残留しやすい

 細かい粒が咽頭に残り、誤嚥のリスクにつながることがあります。

③ むしろ食べにくい

 口の中でまとめにくく、送り込みにくくなる場合があります。

④ 見た目や食欲の低下

 どんな食べ物なのかが分かりにくくなり、食事の満足感や楽しみが低下することがあります。

3.食形態は「噛む力」だけで決められない

摂食嚥下障害では、「噛む力(咀嚼機能)」だけでなく、「舌で食塊をまとめる力」、「咽頭へ送り込む力」、「飲み込むタイミング」など、さまざまな機能が関係しています。そのため、「噛みにくい=細かく刻めばよい」とは限りません。

例えば、噛む力は保たれていても、舌で食べ物をまとめる力や飲み込む力が低下している場合には、細かく刻まれた食べ物が口の中や咽頭でばらけ、かえって飲み込みにくくなることがあります。むしろ、食材そのものを軟らかく調理し、適度なまとまりや付着性を持たせた方が、安全に飲み込める場合も少なくありません。大切なのは、「噛めるか」だけではなく、「口の中でまとめて、安全に飲み込めるか」という視点で食形態を考えることです。

4.研究でも明らかになっている

(図)は実際に軟菜食(軟らかい一口大)ときざみ食の咀嚼能率(どれだけ効率よく噛めるか)を比較した研究です。すべての咬合力(噛む力)において、軟菜食はきざみ食および硬いきざみ食にとろみを付加した食事よりも、咀嚼能率が有意に高いことが示されました。また、咬合力が150N、200Nと高くなっても、軟菜食の方が、より効率よく噛めることが示されました1)

つまり、「細かく刻めば噛みやすくなる」とは限らず、十分に軟らかく調理された食材の方が、むしろ効率よく咀嚼できる可能性があることを示しています。これは、食材を細かく刻むことで、口の中で食塊としてまとまりにくくなり、かえって咀嚼や食塊形成が難しくなるためと考えられます。

5.これから求められる食支援

したがって、摂食嚥下障害のある方への食支援では、単に「小さくきざむ」のではなく、「食材そのものを軟らかく調理する」,「口の中でまとまりやすい状態にする」,「食塊を形成しやすい形態にする 」などを考慮した食形態の調整(嚥下調整食)が重要になっています。さらに、食べる楽しみ、見た目、おいしさ、本人の希望も含めて考える必要があります。

6.おわりに

きざみ食は、長年現場で使われてきた大切な工夫の一つです。しかし、摂食嚥下支援が進歩した現在では、「小さくすること」だけではなく、“安全にまとまって飲み込めること” が重要視されるようになっています。「食べやすそう」と「安全」は必ずしも同じではありません。一人ひとりの“食べる力”に合わせて調整することが、これからの摂食嚥下支援に求められています。

参考文献

1)大原里子ほか.軟菜食ときざみ食の咬合力低下における咀嚼能率の比較―模擬咀嚼装置を用いた検討―.日摂食嚥下リハ会誌.2024;28(1):21-28.

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