小城明子(日本女子大学食科学部栄養学科)
はじめに
『発達期嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018』(以下、『発達期嚥下調整食分類2018』)は、小児や発達期に摂食嚥下機能に障害をきたした方を対象として、日本摂食嚥下リハビリテーション学会(以下、JSDR)が策定した分類です1)。同学会が2013年に策定し、2021年に改訂した『嚥下調整食分類』は、主に成人の中途障害者を対象とした分類であり²)、対象が異なります。
発達期嚥下障害児(者)の特徴
発達期は、身体の成長に伴って摂食嚥下器官の構造が変化するだけでなく、運動機能・感覚機能・認知機能も大きく発達する時期です。そのため、障害の出現時期に応じた摂食嚥下機能の獲得と維持、さらには加齢による機能変化までを見据えた支援が必要になります。また、発達期の摂食嚥下障害は原因疾患が多様であり、同一疾患であっても障害時期によって病態が異なることも少なくありません。そこのような背景から、中途障害者よりもさらに個別性の高い対応が求められることになります。こうした課題を踏まえ、JSDRでは新たな分類の必要性を検討しました。
策定の経緯
策定にあたっては、まず実態把握を目的として、養護学校や重症心身障害児施設などを対象にアンケート調査を実施し、給食で提供されている食事形態やその想定対象者を調べました3)。これらの調査結果を基に、対象児(者)の摂食嚥下機能の発達支援、そして医療・保健・教育・福祉の各分野が連携したチーム支援の推進を目的として、『発達期嚥下調整食分類2018』が策定されました。
活用状況の調査結果
策定から約5年後、その活用状況が調査されました4)。重症心身障害児(者)施設および国立病院機構の重症心身障害児病棟を有する病院へのアンケートによると、給食に『発達期嚥下調整食分類2018』を活用している施設は38.4%にとどまりました。未活用施設の半数以上では、中途障害者向けの『嚥下調整食分類』を使用しており、それが導入しない理由として挙げられています。ただし、両分類を比較検討したうえでの判断か、あるいは導入検討が十分になされなかった結果なのかは明らかではありません。

活用が進まない背景と課題
もし各施設で十分に検討したうえで、中途障害者向けの分類のほうが自施設の対応に適しているという判断であれば問題はありません。しかし、発達期特有の個別性に対応しきれず支援に無理が生じている場合は、『発達期嚥下調整食分類2018』の活用を改めて検討していただきたいと思います。JSDRとしても、対象者や目的の再周知を図るとともに、実践事例を通じて本分類の有用性を明確に示していくことが重要と考えています。また、調査では「出来上がりのイメージや調理方法に対する不安」が導入の妨げとなっていることも示されており4)、実際の調理例や運用の工夫を共有するなど、補助資料の充実が今後の課題です。
まとめ
『発達期嚥下調整食分類2018』は、単なる食形態の分類ではなく、発達段階に応じた「食べる力を支えるための道しるべ」です。発達期嚥下障害児(者)の支援に関わる多職種が共通の基盤として活用し、より適切な食支援が広がっていくことを期待しています。
参考文献
1) 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会発達期嚥下調整食特別委員会:発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018,日摂食嚥下リハ会誌,22:59–73,2018.
2) 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021,日摂食嚥下リハ会誌,25:135–149,2021.
3) 水上美樹,浅野一恵,小城明子,他:発達期障害に対する発達期嚥下調整食分類の統一にむけて―特別支援学校,入所施設,通所施設の実態調査からの課題―,日摂食嚥下リハ会誌,20:70–79,2016.
4) 小城 明子, 水上 美樹, 弘中 祥司, 藤谷 順子:『発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018』の活用の現状と課題, 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌, 28:99-105,2024.


