栄養強化嚥下調整食導入事例(富山西リハビリテーション病院)

著者:松長由美子

嚥下調整食提供数(1日あたり)

平均40食

施設紹介

当院は、富山県富山市南西部に位置した120床の回復期リハビリテーション病院である。同院の隣には、同グループである急性期病院の富山西総合病院があり、急性期から回復期、生活期へと1つの病院のように互いが連携するワンストップサービスをめざしている。同院には、脳血管疾患4割、大腿骨などの骨折が4割、廃用症候群が2割程度入院している。日常生活能力の回復や在宅復帰、復職など患者それぞれの目標、それぞれの生き方に寄り添い、多職種がそれぞれの専門性を活かしながら1年365日休みなく高レベルのリハビリを提供している。

給食提供は、ニュークックチルシステムを採用

給食部門は、ニュークックチルシステムを採用し完全委託している。院外のセントラルキッチンにて調理された完全調理済食品をチルド温度帯で配送、施設内で加工し盛り付け、再加熱カートで再加熱し(冷たいものはチルド帯のまま)配膳される。

栄養強化嚥下調整食を導入 「加水ゼロ式調理法」を選択

1.)導入に向けて委託側に説明

  • 作業工程の簡略化:現在作成している粥ゼリーを使用するため、だし汁を作る手間やとろみ調整食品を加減する手間がなく、人員配置の変更はない。
  • 物性の安定:加える水分がだし汁ではなく、決められた分量の粥ゼリーであるため食材による水分量の違いや調理者のスキルによるブレが少ない。
  • 再現性がある:上記が可能となり、ミキサー食調理時のマニュアル作成が可能となる。

2.)病院職員への理解を得る

  • 言語聴覚士と共同した物性評価:従来のミキサー食と加水ゼロ式調理法のミキサー食をそれぞれ、発泡スチロールプレート上に置き直角に傾けた際の落下状況を検証した。
  • 勉強会の実施:「摂食嚥下口腔ケア委員会」の委員(医師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士)に対して摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士が嚥下調整食学会分類2021を説明した。
  • 官能検査の実施:「摂食嚥下口腔ケア委員会」にて試食を行い、かたさ・付着性・凝集性・変形性・おいしさを評価した。
  • 「摂食嚥下口腔ケア委員会」にて、嚥下内視鏡を用い、従来のミキサー食と加水ゼロ式調理法のミキサー食の咽頭での状態を可視化した。(被験者:職員)
  • 「摂食嚥下口腔ケア委員会」にて、従来のミキサー食と加水ゼロ式調理法のミキサー食の重量と栄養量の違いを説明した。

調理上の工

・従来のミキサー食作成時と器具の変更はないが、ニュークックチルシステムにより、料理と粥ゼリーともにチルド状態での加工が必要であったためミキシングすることによる撹拌機のモーター負荷があった。→刻み食(3mm程度)まで加工したものをミキサー食に展開した。

・たんぱく質を含む主菜、青菜やイモ類などは凝集性が強く変形性が少なかった。また、水分や油脂が多く含まれているものは適度な変形性があった。 →中鎖脂肪酸オイルを2%加えた。

・料理によって粥ゼリーの割合を変更すると、ばらつきが大きく再現性が得られなかった。 →粥ゼリーの量を料理と同量とし、統一した。

食事重量と栄養量の比較

従来のミキサー食に比べ、1食で約120g減量となり、エネルギーは500kcal/日 増量した。常食の提供エネルギー量と同等の1800kcal/日の提供が食事のみで可能となった。

職種エネルギー蛋白質脂質糖質
常菜食1800kcal70g40g300g
従来のミキサー食1300kcal55g30g200g
加水ゼロ式ミキサー食1800kcal60g50g275g
栄養量の差+500kcal+5g+20g+75g
 軟菜食従来のミキサー食加水ゼロ式ミキサー食
1食分・副食3品の総重量240g600g480
軟菜食と比較した総重量の差 +360g+240g

加水ゼロ式調理法を導入、運用後の問題点が発覚

加水ゼロ式調理法ではミキサー食の調理時に水分の代わりに粥ゼリーを使用し、物性の安定性と効率的なエネルギー確保を可能にした。

粥ゼリーは70℃以上で加熱し冷却するとゲル化する特徴がある粥調整食品の添加で作成されている。そのため、半量を粥ゼリーとした場合、「粥ゼリー」と「料理」を混合したミキサー食では、加熱後にカート内で冷却するとゲル状(写真1)となってしまい、意図したゾル状の仕上がりとするには冷却工程のないもののほうが適していると思われた。

ニュークックチル方式で加熱後冷却せずにそのまま配膳すると、品温が40度以下に自然に下がっていればゾル状になるが、品温が下がりきらずに配膳されると液状のままとなってしまい、提供されるミキサー食の物性が不安定だということがわかってきた。

写真1

ニュークックチル対応の加水ゼロ式調理法でミキサー食が完成

「全粥」と「料理」に、「ゲル状に仕上がる酵素入り粥調整食品」と「ゾル状に仕上がる酵素入り粥調整食品」の2種類を加え、ミキサーで攪拌、加熱・冷却工程を経ると学会分類コード2相当の物性に仕上がった。ニュークックチルに対応できる加水ゼロ式調理法でのミキサー食(以下、西リハミキサー食)が完成し導入に至った。(写真2)

写真2

「西リハミキサー食」導入時には・・・

  • 言語聴覚士とともに官能検査にて物性評価をした。
  • 提供初期はとろみあん(とろみ調整食品4%)を別皿で提供し、手元調理ができるようにした。
  • 物性の安定が確認され周知された後、「西リハミキサー食」はすべての患者に適応できているため、別皿のとろみあんは不要になった。

「西リハミキサー食」を導入して・・・

〇患者の反応

・従来のミキサー食は、苦情が多かったが、「西リハミキサー食」は、おいしいと言われることが多い。

〇言語聴覚士の反応

・離水しにくく、適度なとろみ加減で嚥下しやすい。栄養価が高く摂取量が少なくてもよいので助かっている。

・従来のミキサー食は食材や温度によってかなり物性が変わってしまい嚥下障害に合わせた手元調理が必要なことが多かった。ミキサー食よりも極刻みとろみ食を使用したほうが安全なことが多かった。しかし、「西リハミキサー食」は、物性は均一化されており咽頭期障害が重度な患者にも使用しやすくなったように思う。味がよくなったこともありミキサー食でも食べていただける方が多くなったため食事をするだけで嚥下リハビリになり大きなメリットになっている。

〇管理栄養士の反応

・摂取エネルギーが確保されるため、リハビリテーションの効果が期待できる。
・栄養価が高く、常食と同じレベルなので補助食品に頼らなくてもよい。
・誰が作成しても同じ物性のミキサー食となり調理工程が単純で調理しやすくなった。
・粥の甘味があり、加水より味が濃くおいしい。
・経管栄養から経口移行となっても栄養価が低下しない。
・ミキサー食から刻み食や軟菜食になったときに提供エネルギーが減少するため対策が必要。

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