栄養強化嚥下調整食導入事例(熊本リハビリテーション病院)

社会医療法人令和会 熊本リハビリテーション病院

著者:嶋津さゆり

嚥下調整食提供数(1日あたり)

1回30食程度

栄養強化嚥下調整食導入までの体制作り

★どのように体制を整えたか?どのように献立や調理工程を見直したか

・院内の体制から見た摂食嚥下チームアプローチ

当院における摂食嚥下障害患者の栄養管理は、平成7年から関わり始めており、その時期から「摂食嚥下チーム」という名称で活動を展開していました。摂食嚥下障害と低栄養の関連性が認識されるようになったことを背景に、栄養サポートチーム(NST)も重要な役割を果たしてきました。これらの活動は、相互に積極的に連携しながら進められており、平成15年以降はより体系的な取り組みとして展開しています。以前は、嚥下専門医の有無によってチームアプローチの活動内容が変化していましたが、摂食嚥下チームの再編を経て、「摂食嚥下委員会」という形式へと移行しました。この変化により、多職種が多くの意見を出し合い、円滑な運営が実現しています。最近の話題として、リハビリテーション(以下リハ略)と口腔栄養連携加算の新設があります。当院では長年にわたりリハ栄養と口腔ケアに積極的に取り組んでおり、そのエビデンスに基づく情報発信も行ってきました。この取り組みが診療報酬の点数に結びついたことは、大変喜ばしい成果と考えています。

・栄養科内の体制からみた摂食嚥下食作成の取り組み

当院では、摂食嚥下体制の強化に本格的に取り組み始めたのは、2010年の新病院建設に伴う調理システムの導入がきっかけです。それ以前は、衛生管理が十分とは言えない厨房での調理を行っていましたが、新館建築にあたり、安全・安心な食事提供と調理スタッフの負担軽減を目的とした改善策を検討しました。

その結果、嚥下調整食の各レベルに応じて、以下のような取り組みを実施しました。嚥下調整食の2~4レベルでは、クックチル(調理済み冷却保存技術)を活用した計画生産とストック化により、安定した供給体制と調理スタッフの負担軽減と安全性の向上を図っています。嚥下障害を持つ患者さんの摂食訓練においては、耐久性の低下や疲労感を考慮し、最初から普通量の食事を摂取できる患者は少ないことから、少量高エネルギーの食事を目指しました。献立作成に関しては、嚥下調整食で使用可能な食品の素材が限られるため、2週間分の献立を作成し、栄養価や調理方法の標準化を進めました。2週間という期間設定については、個人差もありますが、私自身は2~3日前に何を食べたかを覚えていないこともあります。皆さまはいかがでしょうか?この取り組みにより、嚥下調整食の献立内容を充実させるとともに、栄養量の確保が可能となりました。

工夫点

★特に苦労した点、工夫した点 患者の反応や状態がどう変わったか

当院の摂食嚥下に関する取り組みの一環として、嚥下食を提供している患者さんの退院時の状況を分析した結果をご報告いたします。まず、退院時のADL(活動・日常生活動作)は改善し、FIM(Functional Independence Measure)の得点も向上しており、経口摂取の促進により在宅復帰率も上昇するなど、良好な結果が得られました。一方で、栄養面から見ると、退院時のBMIは低下傾向にあり、必ずしも良好な結果とは言えませんでした。嚥下調整食の献立については、できるだけ栄養価の高い内容を心掛けていましたが、結果として体重の維持にはつながりませんでした。(図1)

図1

この結果を踏まえ、今後の改善策として、嚥下調整食の主菜や副菜だけではなく、個々の嗜好や体調不良により全量摂取が困難なケースに対応する必要性を認識しました。特に、主食やデザート類には比較的食欲が進む患者さんも多く見られ、例えば、主菜を摂らなくても、練梅や海苔の佃煮などをかけて主食を摂取したいという希望を持つ患者さんもいます。これらの課題に対し、長年にわたり検討してきた解決策は、機能訓練を促進するための食事形態の工夫と、身体機能の改善を目的とした栄養補給の両面からアプローチすることです。特に、少量で効率的にエネルギーを確保でき、嚥下障害に即した対応を行うことが、相互に効果的であると考えています。今後も、患者さん一人ひとりの状態や嗜好に合わせた柔軟な対応が必須となります。そこで最初に取り組んだのは、高カロリーゼリーの開発でした。当時(今から25年前)80gで220kcalの開発を行いました。そして、2010年からは主食の積極的栄養強化のための検討を開始しました。最終的には栄養強化の主食が熊リハパワーライス®という軟飯に無味無臭のMCTオイルとプロテインを混ぜて同じ量でも約1.3倍の栄養強化ができる主食が完成しました。提供した患者さんの反応は、軟飯に何か加えていることをまったくわからなかったようです。熊リハパワーライス® を嚥下障害患者さんへ提供した結果としては(図2)のように体重増加、FIM利得、入院期間の短縮、最終食事形態が常食割合の増加、経口移行率の改善がみられています。私たちは個人の嚥下能力と栄養状態を相互に常に考えながらの栄養補給や栄養強化を行っています。

図2

嚥下調整食1食のビフォーアフターの写真と栄養価

★1食のメニューとしてのビフォーアフター写真と栄養価(エネルギーkcal,たんぱく質 脂質 炭水化物 塩分 (図3)

図3

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