ローゼンヴィラ藤原
著者:加藤寿美
嚥下調整食提供数(1日あたり)
10人
栄養強化嚥下調整食導入までの体制構築
【導入の契機と初期対応】
食事摂取が困難な状態で退院された入居者や、施設内で食事量が減少した方々に対し、「何か一口でも食べていただきたい」という思いから、栄養ムース(以後ムース)を補食として試験的に導入しました。食事としての認識が薄く、「食事を食べて欲しい、ムースは食事ではない」と、当初は看護・介護職員から反対の声もありましたが、「食事は摂れなくてもムースなら食べられる」という実績が評価され、補食としての位置づけが確立されました。
【調理工程と基準の見直し】
製品の推奨量では流動性が低く、介護スタッフがスプーンでかき混ぜて粘度を調整する場面が多く見られました。そこで加水量を増やし、施設独自の「ローゼン基準」を策定。委託業者と協働し、何度も試作と評価を重ねて最適な配合を確立しました。
【味のバリエーションと嗜好対応】
「バニラ味以外も欲しい」という現場の声に応え、かき氷シロップを活用してイチゴ味・メロン味を追加。嗜好性の向上により、食事への意欲が高まりました。
【調理体制の整備】
調理員には嚥下調整食の特性や配合技術に関する研修を実施し、誰でも同じ状態を調理できるように指導し、人員配置はそのままで、補食・主食の調理工程に対応できる体制を整備しました。
嚥下食用の器材には、あさひのブレンダーとブリクサーを追加導入し、安定した品質管理を可能にしました。
導入における課題と工夫
【食事量と補食のバランス調整】
病院からの退院サマリーに「食事は半量、栄養補給用にONSを追加」といった記載が増えたことで、ONSの追加が食事量の負担となるケースが発生。これを受け、主食の嚥下コード3相当の全粥(100kcal)の分量を半分にし、ムース(同じく100kcal)に置き換えることで、食べきれる量に調整しました。
【嚥下困難者への主食対応】
酵素ゲル化剤を用いたゼリー状粥は手間がかかる上に「好まれない」「量が多い」との声があり、ムースへの置換により、摂取量の確保と嗜好性の両立を実現。おやつとしての活用も進め、食事以外の時間帯での栄養補給も可能にしました。
少量で高カロリー摂取の工夫のため、ONSの中で、1個200kcalの高栄養製品を複数導入し、選択肢を拡充。食のクオリティ向上に寄与しましたが、最終的に看取り期の方が最後まで口にできるのはムースであるという現場の実感があり、継続的な使用を決定しました。
【栄養介入による低栄養予防】
・エネルギー補給目的で、MCTオイル(5g)を主食に添加。
・たんぱく質補給目的で、プロテイン粉末1包=6.3g(たんぱく質5g)を副食に添加。
これらの早期介入により、嚥下困難であっても施設内での食事摂取が可能となり、低栄養予防に大きく貢献しています。
嚥下調整食1食の写真と栄養価
【献立例】

ご飯140g、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁、鶏肉の香味焼き、筑前煮、キャベツのカニカマあえ、つぼ漬け
栄養価(エネルギー473kcal、たんぱく質20.7g、脂質12.7g 、炭水化物71.1g 、塩分3.3g)

全粥160g、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁、鶏肉の香味焼き、筑前煮、キャベツのカニカマあえ、つぼ漬け
+ムースミックス25g(エネルギー100kcal、たんぱく質4.2g 、脂質2.5g 、炭水化物16.5g 、塩分0.19g)
栄養価(エネルギー459kcal、たんぱく質23.5g 、脂質14.9g 、炭水化物62.7g 、塩分3.3g)
