調理師による嚥下調整食づくり ― 新たな役割への期待 ―

小城明子(日本女子大学食科学部栄養学科)

はじめに

令和8年度診療報酬改定では、特別食加算の対象に嚥下調整食が追加されました。その施設基準には、嚥下調整食の調整に「嚥下調整食に関する知識・技術を有する調理師等」が関わることが望ましいと明記されています¹。診療報酬において、調理師という職種が明確に位置づけられたのは初めてのことです。

調理師は、調理に関する専門的な知識・技術に加え、食品衛生についても一定の知識を有することを国が認めた国家資格です。免許を取得すると、飲食店をはじめ、病院や介護施設などの給食施設でも専門職として活躍することができます。資格取得には、調理師養成施設を卒業する方法と、2年以上の調理実務経験を経て調理師試験に合格する方法の2通りがあります。

調理師の嚥下調整食への関心と学ぶ機会~これまで~

これまで調理師が嚥下調整食について体系的に学ぶ機会は決して多くなく、積極的に取り組む一部の調理師に限られていた面がありました。

東京科学大学の山口浩平講師らは、日本の料理人を対象として嚥下調整食への関心や教育状況を調査し、その結果を報告しています²。調査は、主に飲食店や宿泊施設に勤務する調理師・調理従事者や調理師養成施設の学生など118名を対象に実施されました。その結果、85%以上が嚥下調整食に高い関心を示していた一方で、「十分な教育を受けた」と感じている人は30%未満でした。関心の高さに対して、学ぶ機会が十分ではなかった実態が明らかとなっています。

一方、厚生労働大臣から調理師試験の指定試験機関として指定されている公益社団法人調理技術技能センターでは、調理師の知識・技術・技能の向上を目的とした研修事業を実施しています。その一環として、厚生労働省の国庫補助事業により、令和2年度から無償の嚥下調整食研修を開催しており、令和7年度までに全国延べ31会場で実施されました(図1)。

この研修は、医療・介護施設だけでなく、飲食店などでも嚥下調整食を提供できる人材を育成し、高齢者の食生活をより豊かなものにすることを目的としています。そのため、調理師団体や旅館・ホテル業界団体、自治体などを通じて広く受講を呼びかけてきました。受講者は医療・福祉施設や学校給食施設の調理師の関心が高く、一般飲食店の調理師の参加は比較的少ない状況でした。また、会場によっては調理師養成施設の学生の参加も見られました。

調理師の嚥下調整食への関心と学ぶ機会~これから~

令和8年度診療報酬改定では、嚥下調整食に関する知識・技術を有する調理師等を養成することを目的とした「5時間以上の研修」を修了した調理師が、嚥下調整食づくりに関わることが望ましいとされました¹。これを受け、各地で新たな研修事業が始まっています。

公益社団法人調理技術技能センターの嚥下調整食研修も、この要件に対応できるよう研修内容をさらに充実させました。すでに今年度の受講受付は始まっていますが、複数の会場で定員に達しています。

このような状況から、診療報酬改定を契機として、調理師自身の嚥下調整食への関心が高まっただけでなく、医療・介護施設などにおいても、調理師が専門性を発揮する重要性への理解が進んできたことがうかがえます。

調理師による嚥下調整食

医療・福祉施設の給食では、とろみ調整食品やゲル化剤、酵素製剤などを活用した嚥下調整食づくりが長年行われてきました。そのため、こうした施設で経験を積んだ調理師は、これらの食材や製剤を活用した調理を得意としています。

一方、飲食店などで経験を重ねてきた調理師は、ゲル化剤等にできるだけ頼らず、素材の持ち味を生かしながら見た目にも美しい嚥下調整食を追求する傾向があります。試行錯誤を重ねながらも、料理人ならではの発想や技術によって、魅力ある一皿へと仕上げていく姿を目にすることも少なくありません。

嚥下調整食は、安全性を確保することが大前提です。そのうえで、「おいしさ」や「見た目の楽しさ」を兼ね備えた食事を提供することは、食べる喜びや生活の質の向上にもつながります。

今回の診療報酬改定を契機として、医療・介護施設にとどまらず、地域や飲食店などさまざまな場面で、調理師の専門性を生かした魅力ある嚥下調整食が広がっていくことを期待しています。

参考文献

1)厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定について.

2)Kohei Yamaguchi, et al. Japanese chefs’ attitudes toward texture-modified diets for dysphagia: an exploratory cross-sectional questionnaire survey. International Journal of Gastronomy and Food Science. 2026;44:101521.

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