病院から在宅へ ~「食」をつなぐ要は嚥下調整食~

工藤 美香(駒沢女子大学)

はじめに

超高齢社会を迎えた日本では、「口から食べること」を支える取り組みがますます重要になっています。

誤嚥性肺炎や低栄養の予防、QOL(生活の質)の維持に欠かせないのが嚥下調整食です。嚥下機能が低下した方でも、「安全に」、そして「おいしく」食べ続けるための工夫。それが病院から在宅への移行を支える“食の架け橋”となります。

嚥下調整食とは

日本摂食嚥下リハビリテーション学会では、嚥下機能障害に配慮して調整した(ととのえた・用意した・手を加えた)意味で, 嚥下調整食という名称を使っています1)

物性の特徴は、「かたさ」、「まとまりやすさ(凝集性)」、「くっつきにくさ(付着性)」です。

嚥下調整食は常食と性状は異なるが、食事に変わりはない。食事には「食事の三大要素」があり,嚥下調整食で あってもこれらを備えてなければならない。三大要素とは, 「安全」,「栄養」,「楽しみ」があげられます2)

2021年に改訂された嚥下調整食分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)では、食形態やとろみの程度がより細かく定義され、病院・施設・在宅で共通の基準として活用されています1)。この共通言語があることで、医療・介護の現場を超えて「どのような食形態が適切か」を共有でき、食支援の連携がスムーズになります。

病院から在宅へ「食」をつなぐ

病院では、安全性を最優先し、経管栄養や点滴など“確実に栄養を入れる”手段をとることもあります。一方、患者さんや家族の多くは「口から食べたい」という強い願いを持っています。退院後にその願いをかなえるには、在宅でも適切な嚥下調整食の継続が必要です。
このとき、単に形態を調整するだけでなく、以下の視点が大切です。

・「食べたい・味わいたい」気持ちを尊重する

・長年の食習慣や嗜好を考慮する

・多職種(医師・歯科医師・言語聴覚士・看護師・管理栄養士・介護職など)が連携する

・家族や介護者が無理なく続けられる工夫を取り入れる

在宅復帰後の食支援は、「安全に食べられる」だけでなく「楽しみとしての食事」をどうアプローチしていくかが鍵になります。

写真は、筆者が在宅訪問栄養食事指導を実施した際に調理したものです。患者様(74歳女性)のご自宅に大きな柿の木があって、毎年収穫を楽しみにしていました。脳梗塞発症後、口から食べることが難しくなりましたが、ご主人と娘さんは庭に実った柿を食べさせてあげたいという気持ちが強くありました。そこで、柿をくりぬいて器にして、中の部分をミキサーにかけてペースト状にして盛り付けました。訪問歯科医に協力してもらい、一口を食べることができ、ご本人、ご家族は満足した様子でした。

(患者様のご自宅で収穫した柿をペースト状にして、柿の器に盛り付けました)

課題と今後の展望

(1)継続の難しさ

在宅では調理労力や知識不足が課題です。調理支援や既製品の導入、地域での栄養サポート体制が求められます。

(2)地域格差の是正

介護食や嚥下調整食品の流通・入手性には地域差があり、情報提供と連携拠点の整備が急務です。

(3)専門職の育成

嚥下調整食を理解した管理栄養士・調理スタッフの育成が必要です。
講演や研修会などで知識を共有し、地域全体で「食べる支援」を広げていくことが重要です。

※2016年度にスタートした「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」の認定制度は、摂食嚥下リハビリテーションの基本的知識と摂食嚥下障害を有する方への栄養管理に関するより高度な専門的技能を習得し、医療機関や介護(福祉)施設さらに在宅等において、摂食嚥下障害者(児)や支援を行う家族に対し、適切な食・栄養支援を実践することでQOLの向上に貢献できる管理栄養士の育成を目的としています3)

(4)エビデンスの構築

嚥下調整食が栄養状態・QOL・誤嚥予防に与える効果などの研究があり、嚥下調整食の有効性を示めされています。今後は、個別対応型嚥下食や見た目改善型の食事など、新しい技術の発展が期待されます。

おわりに

嚥下調整食は、「安全性」と「おいしさ」の両方が必要です。病院から在宅への移行期に、食べる力をどうつなぐか──その要は、多職種の連携と、ひとりひとりの“食べたい気持ち”に寄り添う姿勢にあります。

これからも、嚥下調整食を通じて「食べる喜び」を守る支援を広げていきたいと思います。

参考文献

  1. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 嚥下調整食分類2021,日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135–149, 2021
  2. 小城 明子. 「摂食嚥下リハビリテーションを支える嚥下調整食とその物性評価」. バイオメカニズム学会誌,Vol. 40,No.4:241ー247,2016
  3. 日本栄養士会HP https://www.dietitian.or.jp/news/information/2025/503.html (令和7年10月29日現在)

上部へスクロール