栄養強化嚥下調整食導入事例(平成医療福祉グループ成医療福祉グループ)

平成医療福祉グループ

著者:粟田麻友、藤田朋美、阿山明理、堤亮介

嚥下調整食提供数(1日あたり)

全施設合計:約3000食(コード4/3/2:1730/990/280食)
世田谷記念病院:120食(コード4/3/2:20/40/20食)

はじめに

 平成医療福祉グループは、全国で100を超える病院・介護施設を運営し、セントラルキッチンも併用しながら直営で献立作成から食材管理、調理までを一括して行っている。嚥下調整食については、従来は常食や刻み食を水とともにミキサーにかけた「ミキサー食」を提供していたが、見た目や味、仕上がりに課題があった。そこで独自に「食品ペースト」(下記添付写真)を開発し、全施設で共通使用できる体制を構築した。さらに2017年頃には、常食に比べエネルギーや特定の栄養素が不足しやすい傾向にあったため、栄養面にも配慮した改良を行った。本稿では食品ペーストの改良内容を報告する。

栄養強化嚥下調整食への改良までの体制作り

 まず、私たちの嚥下調整食(コード2と3)には、大きく2つの課題があった。

1. 栄養面の課題

炒め物や揚げ物がないことにより脂質、エネルギーの提供量が少ない傾向にあった。また、ビタミンC、カルシウムなどについても給与栄養目標量を下回っており、常食よりも栄養価が劣る状態であった 。

2. 献立構成面の課題

エネルギーアップのため、小鉢の味付けをマヨネーズやオイル系ドレッシングに変更することが多く、常食の味付けと異なってしまう。
脂肪分の多い魚種の使用頻度が多くなっていたなど献立構成上の偏りが生じていた。

そこで、これらの課題を解消し、「安全でおいしい」だけでなく「常食に劣らない」嚥下調整食の提供を目指し、「素材ペーストの品質改良」と「献立構成の改善」という2つのアプローチで取り組みを開始した。

<素材ペーストの品質改良>

 不足していた栄養素を補うため、以下の強化を行なった 。
 ・野菜類のペースト:粉末脂質を追加し、エネルギーと脂質を強化
 ・肉・魚類のペースト:粉末ビタミンCと粉末カルシウムを追加

<献立構成の改善>
  • デザートの活用

エネルギー、カルシウム強化のため、牛乳を使用したデザートとして週2回デザートムースを取り入れた。

  • 常食に合わせた献立展開

素材ペースト自体のエネルギーが上がったことで、無理な献立展開をせず、常食に合わせた展開が可能となった。

  • 食材割合の変更

小鉢料理などでは、従来の「野菜ペースト30g+たんぱく質源ペースト20g」という構成を「野菜ペースト20g+たんぱく質源ペースト30g」へと変更した 。これにより、全体のボリューム感は維持したまま、たんぱく質量の増加を図った。

  • 各事業所での個別対応の強化

各施設でMCTパウダー・オイルやプロテインパウダーの購入は可能となっているため、各施設の特徴に応じて個別で強化できる体制を整えている。

<その他体制・器具について>

組織体制や調理器具などの変更は行わず、各施設における調理工程も従来から変更は行っていない。各施設の現場における負担は変えることなく、栄養量の強化を行なった。

 品質改良における課題と工夫

【苦労した点】

栄養強化素材(粉末脂質など)を添加すると、素材によっては色が悪くなり、本来の風味を損ねてしまったりすることが最大の課題であった。また、粉末を追加することでペーストの粘度が変わり、ミキサーが回りにくくなる問題も発生した 。

【工夫した点】

上記の課題に対し、栄養強化素材添加量の調整に力を入れた。見た目や味に影響が出ない限界量を、素材ごとに何度も試作を繰り返して見極めた。特に影響が出やすい素材への添加は避け、他の素材で補うなどの調整も行なった。また、粉末を加えても追加の加水をせず、滑らかなペーストが作れるよう、ミキサーにかける分量や素材の組み合わせを工夫した 。

嚥下調整食1食のビフォーアフターの写真と栄養価

今回の取り組みにより、以下の表のように嚥下調整食の栄養価が改善した。見た目については、患者様の食欲を損なわないよう、従来の食事や常食とボリューム感に差が出ないように配慮した。改良前は、栄養基準が1700kcalのところ1600kcal/日を下回る日もあり、1570〜1680kcalでの提供となっていたが、改良後は1600~1750kcalで提供されている。

<栄養価の変化>

 エネルギー (kcal)たんぱく質 (g)脂質 (g)炭水化物 (g)塩分 (g)ビタミンC (mg)カルシウム (mg)
改良前157056.933.7254.65.956704
改良後179261.743.5288.96.9901284

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