栄養と口腔機能

東京都健康長寿医療センター研究所 本川佳子

フレイル・サルコペニア対策における栄養のポイント

日本は他の先進諸国に類を見ない速さで超高齢社会に突入しており、高齢者人口の増加とともに介護を必要とする要介護高齢者の増加が予想されています。その中で、その前駆状態であるフレイルの予防と改善は喫緊の課題となっています。

最近のフレイルと栄養に関する研究では、単一の食品や栄養素の摂取ではなく、様々な食品を摂取する「食品摂取多様性」の重要性が指摘されています。私たちの研究では、魚介類、肉類、卵、牛乳、大豆・大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、いも類、果物類、油脂類の10食品¹⁾について、それぞれ「毎日食べる」を1点、それ以外を0点とした10点満点の食品摂取多様性スコアで評価を行いました。その結果、フレイルのグループは3.9点、プレフレイルのグループは4.3点、健常(Robust)のグループは4.5点となり、フレイルのグループで最も低い値を示しました。性別、年齢、飲酒、喫煙、既往歴、血清アルブミン値、エネルギー摂取量を調整した後も、フレイルの重症度と食品摂取多様性の間には有意な関連が認められました²⁾。

先行研究においても、食品摂取多様性スコアが6点以上の場合、除脂肪量が有意に高い値を示すとの報告があります³⁾。この10項目の食品摂取多様性スコアの点数が高いことは、炭水化物・穀類エネルギー比が低く、エネルギー・たんぱく質・脂質エネルギー比が高いこと、ミネラルの摂取が多く、いわゆる「栄養素密度の高い食事」摂取につながることが報告されています⁴⁾。これにより、筋たんぱく合成への関与や代謝・生理作用の維持に関与することで、筋量や身体機能の低下が抑制された可能性が考えられます。

食品摂取多様性スコアは10食品の摂取向上を目指すもので、高齢者やそのご家族にも理解しやすい指標です。実際に特定高齢者に対して3か月間の栄養介入を行った結果、食品摂取多様性スコアが1.7点増加し、緑黄色野菜以外の9食品の項目で摂取する割合が増加したとの報告もあります⁵⁾。

食品摂取多様性の維持と口腔機能

では、この食品摂取多様性を維持するための背景には何があるのでしょうか。身体機能をはじめ、多くの要因が食事には関わっていますが、ここでは特に口腔機能との関連に着目して述べたいと思います。

私たちの研究において、LOTTE社製の咀嚼力判定ガムを用いて、地域在住高齢者を対象に咀嚼機能と食品・栄養素等摂取量の差について検討したところ、よく噛めるグループに比較して、噛めないグループでは多くの栄養素や食品群別摂取量で低い値が認められました⁶⁾(図)。特に摂取量で10%程度の差が認められたのは、栄養素ではたんぱく質、脂質、鉄、ビタミンA、ビタミンCであり、食品群別摂取量ではいも類、緑黄色野菜、その他の野菜、海藻類、豆類、魚介類、肉類、種実類でした。咀嚼機能が低下している噛めないグループは、噛みごたえの高い食品を避ける傾向があり、偏食傾向にあることが示されました。

図: 咀嚼機能と栄養素等摂取量・食品群別摂取量

先行研究においても、Iwasakiらは75歳の高齢者を対象とした縦断研究において、歯牙欠損の存在がたんぱく質、カルシウム、ビタミン類、野菜類、肉類の摂取低下につながることを報告しています⁷⁾。また、Hoshinoらはオーラルフレイルと食品摂取多様性が関連することを報告しています⁸⁾。咀嚼機能の低下、歯の喪失、オーラルフレイルに対する適切な介入がなされない場合、栄養素や食品摂取量、多様な食品摂取が妨げられ、ひいては低栄養やフレイルへとつながっていくことが推察されます。

最近では、口腔保健と栄養の関連についての研究が多数報告されており、文献数は一貫した増加傾向を示しています。学際的な研究の発展とともに、地域における歯科と栄養の連携の社会実装が期待されます。

参考文献

1)熊谷修, 渡辺修一郎, 柴田博 他, 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連. 日本公衆衛生雑誌, 2003, 12, 1117-1124.

2)Motokawa K, Edahiro A, Watanabe Y et al., Frailty and dietary variety in Japanese older persons: a closs-sectional study.

3)Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H et al., Association of dietary variety with body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese. J Nutr Health Aging, 2016, 20, 691-696. 

4)成田美紀, 北村明彦, 武見ゆかり 他. 地域在宅高齢者における食品摂取多様性と栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連. 日本公衆衛生雑誌. 2020, 67, 171-180.

5)深作貴子, 奥野純子, 戸村成男 他.特定高齢者に対する運動及び栄養指導の包括的支援による介護予防効果の検証. 日本公衆衛生雑誌. 2011, 58, 420-432.

6)Motokawa K, Mikami Y, Shirobe M, et al., Relationship between Chewing Ability and Nutritional Status in Japanese Older Adults: A Cross-Sectional Study, Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 1216; https://doi.org/10.3390/ijerph18031216

7)Iwasaki M, Yoshihara A, Ogawa H, Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years. J Oral Rehabil. 2016, 10, 737-744.

8) Hoshino D, Hirano H, Edahiro A, et al, Association between Oral Frailty and Dietary Variety among Community-Dwelling Older Persons: A Cross-Sectional Study, J Nutr Health Aging 2021, 25, 361-368.

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