園井みか(ノートルダム清心女子大学)
嚥下機能の変化をどう捉えるか
嚥下機能は加齢とともに少しずつ変化し、むせやすさや飲み込みにくさ、食事に時間がかかるといった兆候が見られるようになります。こうした変化は臨床でしばしば経験され、食形態の調整、姿勢の工夫、栄養補助食品の活用など、多職種による早期の支援が役立ちます。一方で、本人にとっては「いつまで今の食事が続けられるのだろう」という不安が生じやすく、家族も変化への対応に迷いを抱くことがあります。食事は栄養をとるだけでなく、生活の楽しみや生きがいと深く結びついているためです。
そのため、嚥下機能の変化に気づいた時点で、今後の食支援の方向性を本人・家族・多職種で共有しておくことは大きな意味があります。急に選択肢が限られた状況に直面するのではなく、事前に希望や価値観を確認しておくことで、本人に寄り添った支援につながりやすくなります。
「元気なうちから」始める食のACP
Advance Care Planning(ACP)は、判断力が保たれている元気な時期から始めることが重要とされています。しかし、厚生労働省の意識調査では、ACP(人生会議)を「聞いたことがある」と答えた人は5.9%にとどまり1)、対話の習慣が十分に広がっていない現状があります。また厚生労働省の広報ページでは、「7割以上が人生会議を知らない」とされ2)、希望を共有する機会の乏しさが社会的課題として示されています。
食支援の場面では、本人の“好きな食べ物”が食欲のきっかけになったり、食事開始の背中を押したりする様子をよく見かけます。食べ慣れた味や思い出のある料理は「食べたい」という気持ちを引き出し、食べる行為への意欲を高めます。一方で、安全性だけを優先しすぎて食形態を大きく制限すると、楽しみにしていた食品が食べられなくなり、食欲低下につながる場合があります。
だからこそ、好物や価値観、食べ方の好みを元気なうちから話し合っておくことが非常に重要です。食への思いを多職種で共有しておくと、食べにくさが生じた時にも本人の望む方向で調整しやすくなり、「どう生きたいか」「どんな食生活を大切にしてきたか」という視点を食支援に生かすことができます。
その人らしい食べ方を守るために
ACPの視点を取り入れることで、嚥下機能の変化と食支援の方針を、本人・家族・多職種で共有しやすくなります。栄養状態の低下は筋力低下やフレイルにつながる可能性があり、食事量の確保は重要な課題です。管理栄養士がACPに関わることで、好物を食べやすい形に工夫する、少量を複数回に分けて提供する、補助食品を柔軟に取り入れるなど、本人の希望を尊重した現実的な食支援を提案できます。また、あらかじめ価値観を共有しておくことで、たとえば「好きなものをできる限り続けたい」という願いと、「安全に食べられる形に調整したい」という多職種の視点を調和させやすくなります。
食べることは、その人の人生観や楽しみを映し出す営みです。だからこそ、食べにくさが生じる前の「元気な段階」からACPを始めることが、本人の希望を守りながら支援を続ける最も確実な方法です。摂食嚥下と栄養の専門職がACPに積極的に関わることは、食べる喜びを長く支え、生活の質(QOL)を高める取り組みであり、今後ますます重要な役割を果たすと考えています。
参考文献
1)厚生労働省. 令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書.
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001235008.pdf
2)厚生労働省. 人生会議(ACP)普及啓発ページ.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66325.html


