著者:本川佳子(東京都健康長寿医療センター研究所)
認知症の方の「食べる」を支える視点
高齢化が進む中で、認知症の方が住み慣れた地域で、その人らしい生活を続けるための支援が求められています。食事は必要な栄養や水分を確保するだけでなく、日々の楽しみや人との交流にもつながる大切な営みです。一方、認知症に伴う認知機能や身体機能の変化は食事に様々な影響を及ぼし、低栄養や脱水のリスクを高めることが指摘されています¹⁾。
認知症の方の食事の問題を考える際には、飲み込む機能だけでなく、食べるまでの過程にも目を向ける必要があります。食事では、食べ物を認識し、食具を使って口に運び、噛んで飲み込みやすい形にまとめ、飲み込むという一連の動作が行われています。認知症の方では、食べ物を認識することや食具を使うことが難しくなったり、食事に注意を向け続けられなくなったりする場合があります¹⁾。こうした食事の開始や継続に関わる問題と、咀嚼・嚥下機能そのものの問題を区別しながら、食べること全体を捉える視点が重要です。
Edahiroらは、アルツハイマー病の高齢者150名を対象に、食事場面の観察などから食事の自立に関わる要因を検討し、認知症の重症度や嚥下障害の徴候に加えて、食事を開始することの難しさが、食事の自立度の低下と関連していました²⁾。このことから、食事量が減少した場合には、飲み込みにくさだけでなく、食事を始められているかという点にも着目する必要があると考えられます。
認知症の背景疾患と嚥下機能
では、認知症の背景にある疾患によって、食事や嚥下の問題にはどのような違いがあるのでしょうか。アルツハイマー型認知症では、食べ物の認識や食事動作の問題に加え、比較的早期から口腔内で食べ物を処理する機能の変化がみられることが報告されています。Miraらが26件の研究をまとめた報告では、舌の動きの低下、咀嚼や食べ物のまとまりの形成の難しさ、口腔内への食べ物の残留などが挙げられ、進行に伴って咽頭での飲み込みの問題も加わることが示されています³⁾。
一方、レビー小体型認知症では、咽頭での飲み込みの問題にも注意が必要です。Londosらは、レビー小体型認知症または認知症を伴うパーキンソン病の方を対象に、飲み込みにくさや咳の症状がある方に嚥下造影検査を行い、多くの方に咽頭期の障害が認められたことを報告しています⁴⁾。また、血管性認知症では脳血管病変に伴う運動機能の障害が咀嚼や食べ物の送り込みに影響する場合があり、前頭側頭型認知症では過食や早食いなどの食行動の変化が問題となることがあります⁵⁾。
このように、認知症の方の食事の問題は一様ではありません。同じ診断名でも症状や進行には個人差があり、背景疾患や重症度だけで嚥下機能を判断せず、実際の食事場面を確認することが大切です。
食事観察と栄養管理のポイント
食事場面では、むせや咳、口の中への食べ物の残留、飲み込むまでの時間などに加えて、食事を始められているか、途中で手が止まっていないか、食具を使えているかを確認します²⁾³⁾。また、食事や水分の摂取量と体重の推移を把握し、食べ方の変化と栄養状態の変化をあわせて捉えることが重要です¹⁾。
特に、食事が提供されていることと、実際に食べられていることは必ずしも同じではありません。例えば、紙パック飲料にストローを差す、ヨーグルトの蓋を開けるといった操作が難しい場合には、食品が手元にあっても摂取につながらない可能性があります。食べ物を残している理由を、食欲や好みだけで判断せず、容器の開封や食具の操作を含めて観察する視点が求められます。
支援にあたっては、食事に集中できる環境を整え、本人の能力に応じた声かけや部分的な介助を行います。ESPEN2024年版ガイドラインでも、本人の好みや能力に合わせた食事介助、使いやすい食具の提供、口腔ケアなどが推奨されています¹⁾。できない部分を補うとともに、本人ができる動作を生かすことが大切です。
食形態や飲み物のとろみの調整についても、認知症があるという理由で一律に行うのではなく、嚥下機能の評価に基づいて検討する必要があります。食形態の変更は、食事や水分の摂取量、食べる楽しみにも影響する可能性があるため、安全性と栄養摂取の両面から継続的に確認することが求められます¹⁾。
食べる楽しみを支える多職種連携
認知症の方の嚥下障害に対しては、食事や姿勢の調整、食事介助、嚥下訓練など、様々な介入が検討されています。Chanらが10件の研究をまとめた報告では、嚥下機能の改善の可能性が示される一方で、研究方法や対象者の状態が多様であり、どの方法が最も有効かについては明確な結論が得られていません⁵⁾。一人ひとりの状態に合わせて支援を選択し、その効果や負担を確認しながら見直していくことが重要と考えられます。
そのためには、医師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士、看護職、介護職などが、ご本人やご家族と情報を共有することが大切です。飲み込む機能だけでなく、食事環境、食事動作、栄養状態、本人の好みや食習慣まで含めて支援することで、その人らしい食生活につなげることが期待されます。安全性と栄養の確保に加え、食べる楽しみを支えるための、地域における多職種連携の充実が求められます。
参考文献
1)Volkert D, Beck AM, Faxén-Irving G, et al. ESPEN guideline on nutrition and hydration in dementia – Update 2024. Clin Nutr. 2024;43(6):1599-1626.
DOI: 10.1016/j.clnu.2024.04.039
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38772068/
2)Edahiro A, Hirano H, Yamada R, et al. Factors affecting independence in eating among elderly with Alzheimer’s disease. Geriatr Gerontol Int. 2012;12(3):481-490.
DOI: 10.1111/j.1447-0594.2011.00799.x
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22233202/
3)Mira A, Gonçalves R, Rodrigues IT. Dysphagia in Alzheimer’s disease: a systematic review. Dement Neuropsychol. 2022;16(3):261-269.
DOI: 10.1590/1980-5764-DN-2021-0073
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36619845/
4)Londos E, et al. Dysphagia in Lewy body dementia – a clinical observational study of swallowing function by videofluoroscopic examination. BMC Neurol. 2013;13:140.
DOI: 10.1186/1471-2377-13-140
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24099488/
5)Chan CTW, Wu TY, Cheng I. A systematic review on dysphagia treatments for persons living with dementia. Eur Geriatr Med. 2024;15(6):1573-1585.
DOI: 10.1007/s41999-024-01107-6
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11632040/


